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2007・8・25 怒鳴る。

ご近所の工事の音で,朝から目が覚める。うるさいなぁ,もう・・・。でも,母に愚痴をこぼしたら,「朝の8時なら,もう文句言えないよ」と言われた。まぁね・・・


洗濯と掃除。あぁ,部屋が汚いなあ。。。


3時30分に家を出て,病院へ。


いつものように「よぉぉ」と手を挙げながら入っていくと,父はワタシの顔を見て,ニッコリした。ちょっとホッとする。しかし,間もなく,「お腹がすいたなぁ」と言い出した。

「あれ?朝と昼の栄養なかったん?」(どうしても,まだ「食事」とは言えないワタシ)と聞くと,「そんなもの無かったよ」と言う。あれぇぇ??

今日の父は,熱もなく,特に下痢が酷そうなわけでもない。栄養中止の理由もないし・・・


父の言葉を間に受けて,看護師さんにこっそり尋ねてみたら,「ええ,朝も昼も,ちゃんとありましたよ」とのコト。


「パパぁ・・・ちゃんと栄養あったってよ。ウトウトしていて,覚えてないんちがう??」と言うと,「勝手に入れられたらかなわんな・・・」と言う。「なんで?」と聞くと「だって,口からのほうがいいから」と。「・・・・・・・」


そして,「人が寝ている間に勝手に入れるなんて,看護婦の悪質な手口だよ」と,眉をひそめて言う。もう,なんていったら,いいのか・・・。「勝手には入れないと思うよ。ちゃんと声をかけるはずだから,パパ,ちゃんと起きてなあかんわ」と言う。


6時,夕食の配膳が始まった。父は目をつぶっている。


お隣の,パーキンソン病のおじさんは,奥さんと娘さんが食事の介助に通ってきている。カーテンの向こうで,「今日はなにかなぁ・・・わぁ,お父さん。美味しそうやで。ハンバーグにあんかけやわ」という声が聞こえる。それらしい匂いがする。

こういうのは,何度聞いても,むごいなあ・・・と感じるのは,こっちの都合なのだろう。


父の斜め向かいにいる患者さんは,一日中,カーテンをくるりと囲って,ひきこもっている。気が滅入るのか,時々,かんしゃくを起こしたような声を出して,ワタシたちを見ても,にらみつけるようにするので,あまり好きじゃない。

今日は特に機嫌が悪いのか,それとも容態が悪いのか,夕食を病室に響き渡るぐらいの音をさせて,乱暴に食べている。汁気のおおい食事を,流し込むかのように,ズルズルと大きな音をさせて。ラーメンでも食べているみたい。


父がふと,「あぁ,焼きうどんが食べたいなぁ」と言った。「うん」と言うと,「それか,焼きそばが食べたいなぁ」と言う。父もやはり,この音で麺を連想したのか。「・・・うん」と,言って知らん顔をしていると,急に父が怒鳴るように大声をはりあげた。


「スズメの子~そこのけそこのけ,お馬がとおる~」「やれ打つな~ハエが手をする,足をする~」


ワタシもギョッとしたが,病室中が,一瞬,しーんとしてしまった。なんだかよくわからないが,「・・・それ,小林一茶?」ときくと,父は落ち着いた声で「そうそう。一茶だ」と言った。


そして今度は,「春の海~ひねもすのたりのたりかな~」と,また百人一首でも読むように,大声をはりあげた。

「・・・・・それは,誰や?」「これは蕪村だね」「ふうん・・・」



「他の人に迷惑だから大声ださないで!」とは言わない。もう,いいよ。病院なんだから。おかしい人は,他にもたくさんいるんだから。父だって,時には大声を出したくもなるのだろう。


あれ?スズメの子・・・は,一茶だっけ?良寛さんじゃなかった?国文卒なのに,ワタシもこういうのは自信がない。



ほかの人たちの食事があらかた終わったあと,6時半ごろ,父の栄養が始まった。父は今度はしっかり目をあけて,注射器からチューブに注入される様子を,じっと見ていた。


看護師さんが「10分したら,また入れに来ますね」と去ったあと,「もったいないことをするねぇ」と言う。「なんで?」と聞くと,「口から入れればいいものを」「・・・・・」


ここへ来る直前,ワタシと弟が一ヶ月間,昼と夜に食事介助に通い,絶対にむせないように,誤嚥しないように,まるで見張るようにして,父に食事をさせた。ワタシたちもキツかったが,父も,かなり辛かったに違いない。

父にそのコトを覚えているかどうか,尋ねてみた。「それって,いつのこと?去年のコトか?」・・・父はもう,忘れてしまっているようだった。


自分にとって,しんどかったコトとか,イヤだったコトって,余計に記憶から抜け落ちてしまいやすいのかな。


7時過ぎ,帰るコトにした。「もう帰るよ」と言いながら,父の歯をみたら,下の歯茎から血が出ているように見えた。歯槽膿漏かな・・・気になったので,「ちょっと歯見せて。イーってしてみて」と言うと,父は「イーっ」と言って歯を見せた。歯茎をさわって観察していると,それが不愉快だったのか,「イーっ,イーっ,イーっっ!!!」と,だんだん声を荒げて怒鳴り,ワタシを睨みつけた。


「わかったわかった」と,退散。


癌患者などが,自分の状況を受容していく過程で,「怒り」にとらわれる時期があると,なにかの本で読んだコトがある。あれ?癌患者じゃなくて,親しい人を亡くした人のコトだったか?とにかく,人は,いくつかの段階を経て,物事を静かに受容していくのだ。


やたらに怒鳴る父を見ていて,そんなコトを思い出していた。
# by rompop | 2007-08-25 17:56 | ホスピタル

2007・8・24 不機嫌。

今日の昼から,胃ろうの栄養が再開。

6時30分に着いたら,ちょうど始まるところ。


逆流しにくいように少しトロミをつけたものを,大きな注射で3回に分けてチューブに注入する。1回注入すると10分の間隔をあける。その後,ベッドを起こしたまま30分。

今までに比べて,あっけないくらい短時間で済んだ。体にあうといいなぁ。


注入する時,「気持ち悪くないか」とか「お腹痛くないか」とかアレコレ聞いたら,「そう神経質にカリカリされちゃたまらないな」と父は不機嫌になった。


それでも,昨日よりも肌に少し赤みがもどったような気がする。


しばらくして,父が「明日からはオカズがつくんだね」と言う。

「オカズはつかない。これがパパの食事だから。。」と言うと,「いや,どんな具合になっているのかと思って。。。」と,やや失望したようだった。


「ずっと」とは,とても言えなかった。

「当分のあいだ,これがパパのごはん。仕方ないよ」といい聞かせた。息もたえだえな気持ちで。


そのあと,靴下を無理矢理脱がせ,水虫の薬を塗る。足の爪を切る。父の不機嫌はMAXだ。


今夜は,父は最後までワタシに笑顔を見せてくれなかった。
# by rompop | 2007-08-24 20:50 | ホスピタル

2007・8・23 明日から,再開。

今夜の父。熱はさがっているようだ。でも,栄養がずっと足りないせいか,顔色が白っぽくて,元気がない。まぁ,元気を出せ,っていうほうが無理なんだけど・・・


栄養が足りないせいか,ずっと伏せているせいか,頭もぼんやりしていて,なんだか会話が時々,「とんち話」みたいな具合になる。父がトンチンカンな言動をしても,以前ほどショックを受けるコトはなくなったが(こういうのは,慣れちゃいけないのか・・・),なんだか虚しい気分になる。


水虫の具合をチェックする。なんか・・・・酷くなっている。無理矢理,靴下を脱がせて,薬を塗ろうとすると,「もう,触らなくていいよ!」と嫌がる。「アカン!悪化してる!」と,無理矢理薬を塗る。足の指を広げると「痛いなぁ!」と怒る。「パパのためにやってるんやろう!」とこちらもキレかけると,「じゃあ,好きにしたらいいよ!」と,父もキレる。


やれやれ・・・・誰が好きこのんで,人の水虫に薬なんか塗りたいものか。



しばらくお互いに口をきかなかったが,父が,ひらひらと手を振ってワタシを呼ぶので,父の顔の向いているほうへパイプ椅子を運んで,「なに??」と座った。


「あのねぇ,バナナを買ってきといてくれる?」

「バナナ・・・・パパなぁ,そんな固形物は食べられへんよ。今までずっと,ドロドロのミキサー食やったやろう?それでも詰まって,肺炎になっちゃったんやで・・・・」

父はしばらく,じっと考えている風だったが,「・・・・あぁ,そうだったねぇ」と言う。「仕方ないなぁ?」と言うと,「・・・・仕方ないね」と言う。けど,何かをずっと考えている風。

しばらくしてから,「そうそう,じゃ,キビナゴを買ってきて」と言う。キビナゴ?キビナゴって,なんか魚だったっけ?「イカナゴのこと?くぎ煮?」「あ,そうそう」

「・・・・だから,それも無理やわ。そんなん食べられへん」「・・・・じゃ,しょうがないね」


腹が減っているから,食べ物のコトしか考えられないのだろう。「明日のお昼から,栄養入れてくれるって。看護師さんが言ってたよ」というと,「あ,そう」と,ちょっとだけ嬉しそうにする。

「お腹が空いてるから,食べ物のことばかり考えるよなぁ。栄養が入ったら,少しはお腹ふくれるから,辛くなくなるよ」「そうだね」


7時半頃,主治医がやってくる。父の発熱は,やはり「誤嚥」によるものだったという。唾液などの誤嚥なのか,栄養剤の逆流なのか,それは定かではないが,誤嚥による肺の炎症には間違いないそうだ。

「言い方は悪いですけど,今後,こういう誤嚥は,避けられないです」と,申し訳なさそうに主治医が言う。

「でも,熱が出ても,すぐに下がれば問題ないのです」


要するに,体力,抵抗力,免疫力,なんでもいいが,その力さえ父にあれば,多少の誤嚥があっても,発熱があっても,さほど怖がるコトはないのだ。

そう,そのために・・・・体力をつけるために,胃ろうを作ったのだ,と,また自分を納得させるために,胸のなかで繰り返す。ほかに選択肢がなかったのだ,と。



「明日のお昼から栄養再開ですからね。もう少し我慢してくださいね」と,主治医が言う。父は,笑顔で「はい」と応えている。

でも,主治医が去ったあとも,父は,目を開けたり閉じたりしながら,ずっと空(くう)を見つめている。何を考えているのか・・・・・・ワタシには,本当に父が今,感じている気持ちは,わからないのだろうな。
# by rompop | 2007-08-23 19:37 | ホスピタル

2007・8・22 夏休み。

夏休みを1日取った。

夜,暑くてあまり眠れないせいか,昨日一日,やたらに動悸がして,ふらついた。蓄積された疲労を,少し自覚しないとマズイな。。。と,さすがに思った。


というわけで,今日は正午までダラダラ眠った。ノロノロと起きて,母の特製のオムライスを食べて,ポンジュースを飲んだ。あぁ・・・よく寝た。


午後,寝ころんでテレビを観ていたら,なんだかこのまま,ずっと部屋にいたくなってしまったが,やっぱり父のコトが気になる。

といっても,今日は自分の休養がメインなのだから,いつもよりずっと遅い4時頃,家を出た。行き道に,駅前のショッピングモールに立ち寄り,母に頼まれた下着(母の)を買う。ううむ・・・80才近い母の下着,難しい・・・


5時頃,病室へ。

父は熱も下がり,普通にしていた。顔が少し赤いので,「熱,あるの??」と聞いたら,向かいのベッドの患者さんのオムツ交換をしていた看護師さんが,「熱はありません!」と大声で答えた。そして,「○○さん,お待たせしてごめんね。オムツ替えるからね!」と,あわててオムツ交換。

・・・なんか,怪しい態度だな。案の定,父のオムツは,尿取りパッドもその下のフラットタイプも,たっぷり濡れていた。

「おしっこ,一杯出ていました」と看護師さん。なんだか,長時間,放っておかれたんじゃないだろうか?と,思ってしまった。多分,そうなのだろう。


いつもの点滴と,抗生剤の小さい点滴。やっぱり今日も,栄養は中止中のようだ。それでも,父は空腹のピークを越したのか,あるいは,あきらめ感があるのか,「お腹がすいた」とは,今日は言わなかった。ただ,「いっぺん,バナナ食べたいなぁぁ」と言っただけ。「・・・・うん」とスルーしてしまった。


今日も,車椅子で下へいき,レントゲンを撮ったようだ。


お尻が痛い,というので,身体を少しななめにして,クッションをあてた。ひげ剃りをしてやり,顔や手足をおしぼりで拭いてやった。あとは・・・・・もう,するコトがなかった。


夕方,雷と激しい夕立。傘を持っていなかったので焦るが,これで少しは涼しくなるだろう。


父の向かい側のベッドに,昨日から入っているおジイさんが,点滴やカテーテルを,すぐに抜いてしまうので,2度ナースコールを押して,知らせた。「もう・・・いい加減にしてよぉぉ」と,看護師さんがキレかけていたから,朝から何度も繰り返しているのだろう。


父は,おとなしく,穏やかな顔で(でも,栄養不足で青白い),ウトウトとしていた。ワタシも,ベッド脇で『婦人公論』を読んでいた。


父がめずらしく,「『文芸春秋』が読みたいなぁ」というので,「明日,買ってくるね」と約束した。
# by rompop | 2007-08-22 18:33 | ホスピタル

2007・8・21 菓子パン。

6時半に病室へ。


寝ていた父が目を覚ますなり,「朝からなにも食べてないんだよ!」と訴える。昨日,熱が出たので栄養が中止になったと説明するが,「昨日のことなんか覚えてない」そうだ。


しきりに「お腹が空いた」といい,売店で菓子パンを買ってきてくれ,とワタシに言う。「パンなんか無理やんか。。」と言っても,「時間がたてば食べられるやろう。その時のために用意しとくんや」と聞かない。


「前に肺炎で入院した時は,一週間くらい点滴だけで我慢したよ」と言うと,「肺炎で入院?なんのことかわからん」とのこと。

忘れちゃったのか。。。


熱は下がったようだ。たんも絡まない。ただ,腹が減るのだ。。。


看護師さんが肺の音をチェックするのに,父に深呼吸をさせた。父のお腹が,グーと鳴った。


父は帰り際になって,「これだけ頼んでも買ってきてくれないんだから,もういいよ」と,声を荒げた。帰る時に握手をしても,イヤそうにすぐ離して,目を閉じてしまった。



悲しい。。。でも,悲しくても,ワタシも腹が減るのだ。



2007・8・21 菓子パン。_d0062023_1847306.jpg
病室の窓からわずかな夕焼け。
# by rompop | 2007-08-21 18:47 | ホスピタル