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入院。

7時半に起床。

昨夜,残した,鶏肉と玉ねぎのおかずを食べ,梅干でご飯を一杯。麦茶。

用意をして,8時半過ぎにタクシーを呼ぶ。

父が「行ってきます,留守中よろしく」と,低姿勢で挨拶をしているのに,弟は,ただ「はい」と言うだけ。「なんか,他に言うコトないのか」と,ワタシの胸の中は,怒りが渦を巻く。ワタシがわざわざ休みを取って付き添うのが,不服らしい。母たちには,「自分に言ってくれれば,荷物運びくらいするのに」と,ぐちぐち言ったらしいが,気軽にそんなコトを頼めない雰囲気を醸し出しているのは,自分だということを,彼は自覚していない。恩着せがましく荷物を運ばれたって,父も母も,気を使い疲れるだけだ。

昨夜から,ずっと弟には腹立たしい思いをしていた。ワタシたちがタクシーを待つ間,弟は,ずっと黙って玄関に立っていたが,ワタシは,彼に背を向けて黙って座っていた。タクシーが来ても,目も合わさず,さっさと1人で荷物を運んだ。

9時過ぎに病院に到着。入院手続きを済ませる。入院手続きのカウンターの向こうに,見覚えのある顔を見つけた。名札には,覚えのある名前。彼女をワタシは確かに知っている。中学か,高校かで,同じクラスだったYさんだ。向こうはワタシに気づかなかったが,なんだか,少し嬉しくなる。そう仲の良い人ではなかったし,あまり話した記憶もないが,懐かしかった。左手の薬指には,指輪はない。名字も変わっていない。独身で,地元でずっと働いていたのか,と思うと,さらに嬉しかった。

放射線科の外来でしばらく待たされ,ナースに案内されて,病室へ。巨大な大学病院の,迷路のような廊下を歩いて,3号館の4階,34病棟へ。大きな病院で,増築を繰り返し,外観はとてもキレイだが,病棟はかなり古く,トイレなどは汚かった。少し,気が滅入る。父は,パリパリに緊張している。

案内されたのは,4人部屋。窓際は光が入り,明るい印象だが,父のベッドは,廊下に面した扉のすぐ近く。目隠しのためにカーテンをひくと,陰気な感じだ。しかし,空きがないのなら,贅沢は言えない。

父は下着を着替え,ワタシは,タオルや下着を,棚に入れる。梅干と「ごはんですよ」は,冷蔵庫へ。小さいが,冷蔵庫が1台ずつあるのは,ありがたい。冷房はあまり効いておらず,少し蒸し暑い。母は,うちわを使いながら,「暑いね」と,言う。

この病棟は,放射線科の患者ばかりだそう。というと,ガン患者が多いのか。同室の患者さんたちも,あまり具合が良くなさそうだ。

昼食時までの間,さしてするコトもなく,担当のナースが問診にやってきて,血圧などを測っただけだった。父は,まだ緊張していて,少し血圧が高くなっている。しかし,ナースは優しく,親切だ。この病院は,2人の患者に1人の割合で,ナースがいるらしい。

昼食。どんな食事か案じていたが,普通食の父のトレイには,美味しそうな汁と,ブロッコリーや,ベーコンを巻いたポテト,そして,たっぷりの麻婆豆腐がついてきた。ご飯は,山盛りの白米。「うわぁ,ご馳走やね」「たくさんある」と,思わず声が出る。同室の患者さんが,あちらのベッドから,こっちを覗きこんでいるのが見えた。彼は病人食らしく,だしまき卵などの,あっさりしたメニュウ。

父は,嬉しそうに箸をとり,「家の昼ご飯より,ずっとイイ」と,食べ始めた。一口食べて「美味しいわ」と笑顔。

母とワタシは,1階のレストランへ。ワタシたちも,お腹が,ペコペコだ。とんかつ定食を頼む。650円。ここのレストランは,割と美味しいのだ。付け合せのサラダやレタスまで,ぺろりと平らげる。

ミネラルウォーターを売店で買って,父の病室へ戻る。病室へ戻ると,主治医のドクターが父のベッドの脇に立っていた。主治医は,当初の話とは違って,若いドクターが2人つくコトになった。それをナースから聞かされ,母はだいぶ慌てた。ドクターへ渡す,心づけの入った封筒を,1つしか用意していなかったのだ。それで,先ほどワタシが売店に封筒を走って買いにいき,あらためてお札を入れなおし,筆ペンで父の名を書いたものを,2つ作ったのだ。

「放射線も,痛くもなんともないですよ,たまに服作用で下痢になる人がいますが,すぐにお薬を出しますので,言ってください」と,温和な笑顔の,優しそうなドクターだ。それにしても,まだかなり若い。ワタシが横目で見ていると,母はバッグから,封筒をこそこそと出し,タイミングを見計らって,「先生,どうもお世話になります」と,封筒を渡した。若いドクターは,「え。どうもありがとうございます」と,意外なほど素直に,遠慮もなく,しかし,封筒を押し戴くようにして,頭を下げ,あっさりと受け取って,ポケットにねじ込んだ。少し,驚いた。もらい慣れているのだな,と感じた。

あとは,内照射をしていただく,助教授クラスのIドクターだ。しかし,いつもナースをたくさん引き連れているので,手渡すのは,なかなか難しいだろう。今日は,会えなかったので,母はあきらめた。

1時半,ナースが父を呼びにやってきた。放射線治療のシュミレーションをする,と言う。また迷路のような廊下を歩き,6号館の地下にある,放射線治療室へ。ひんやりと,うすら寒い,地下の廊下。誰もいないベンチに,母は,サンダルを脱いで上がり,バッグを枕に横になった。「背中がだんだん痛くなってきた」

父は,若いナースに連れられて,ニコニコしながら,治療室へ消えた。20分くらい,かかるらしい。ワタシは,母に頼まれた用事を済ませるために,市役所へ出かけるコトにした。

迷いながら,地上へ出る。とたんに,うだるような熱気に包まれる。なんという,暑さ。血圧がどうにかなりそうな陽気だ。しかし,帽子を目深にかぶり,ひたすら歩く。母は「タクシーを使って」と言ったが,歩けない距離ではないし,無駄遣いはしたくない。

10分ほど歩き,市役所へ着いた。母が,背中を圧迫骨折した時に,特注で作ったコルセットは3万円近くした。老人医療の補助の請求をすれば,9割が返ってくる。窓口で,請求書に記入し,印鑑を押す。あっという間に,受理された。母がずっと気にしていたお金だった。

次は,国民健康保険課の窓口で,来月受ける,「脳ドッグ」の補助の申請。市のホームページを検索していて,偶然に見つけたのだが,国民健康保険に加入していて,人間ドッグや脳ドッグを受けると,その費用の何割か,補助金が出る。上限は3万円。保険証を見せると,コンピューターで未納がないかどうか確認し,すぐに決定書を出してくれた。受診した後,領収書を持って,あらためて,請求にくれば,お金が返ってくる。予約した脳ドッグは,6万円以上するが,3万円が補助されれば,半額で済む。とてもありがたい。

平日,家にごろごろしている弟に,母が遠まわしに,これらの手続きに行かねばならないコトを話した時,彼は「僕が行ってやる」とは決して言わずに,「ふうん」と言っただけだった。それ以上,母は,頼めなかったらしい。「無職だから,ああいう役所に平日に行くのは,イヤみたい」と母は言うが,そんなの,ワタシに言わせれば,なんの理由にもならない。役立たず,と心の中で,毒づく。

気になっていた用事が,いっぺんに済んで,すっきりした。帰りに,いつもの市場に寄って,巨大なゴーヤ,なすび(4個で150円),きゅうり(6本100円),しし唐(2パック150円)などを買う。母の好きな,がんもどき(220円)。

冷たいお茶のペットボトルを買い,4時前に,病室へ戻る。父は,パジャマを脱ぎ,母と2人でベッドに並んで腰かけ,「暑い暑い」と,うちわを使っていた。

心配していた,放射線治療を初めて受け,「痛くも痒くもなんともなかった」らしく,父は少しリラックスしたようだ。入院前の,あの憂鬱さがどこかへ行ったように,笑顔が出る。父の話では,放射線の技師も,ナースも,とにかく親切で優しいようだ。それで,安心したのかもしれない。

5時前,母はだいぶ疲れたようだ。夕食が運ばれてくる前に,「もう,帰るわ,悪いけど」と言うので,帰るコトにした。母の体調も大事だ。父が1階の正面玄関まで,見送りにきた。別れ際,手を振りながら,ものすごくニコニコしている。「パパ,なんであんなに笑ってんの?」「さぁ,照れくさいんちがう?」と言いながら,去る。振り返ると,父はまだ,手を振っていた。

父は,明日は無理して来なくてもいいよ,と言いながらも,なんとなく来て欲しそうだった。明日は土曜なので,放射線治療もなく,父には何もするコトがない。ワタシ1人だけでも,少し行ってやろう,と思う。2日連続の外出は,母には無理だ。
by rompop | 2004-07-16 18:24 | ホスピタル


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