父は,氷枕をしていた。熱は,37℃ぐらいだと看護師さんが言うが,中途半端な微熱,こういうのってなんなんだろう。。。
1回目の栄養はすでに入れられたあとだったが,ベッドをギャッジアップするのに,足元を全然上げてくれていなかったためか,父の上半身は下にずり落ちて,なんだかすごく不自然なかっこうになっている。「苦しい苦しい」と父が言うので,持ち上げようとしたが,やっぱり,むずかしい。
ナースコールを押したが,夕食時は忙しいとみえて,看護師さんがなかなか来てくれなかった。3回コールを押して,だいぶ経ってから,「遅くなってごめんね~」と,やっと来てくれた。
少し父の体勢を直してもらい,2回目の注入。
この看護師さんは,大人しいが,すごく清楚な顔立ちをしていて,ホントに「白衣の天使」という雰囲気がただよっている。親切だし,なんでも丁寧なのだが,ちょっとだけ・・・・どんくさい。コールを押してなかなか来れないのも,悪気があるのではなく,きっと,1つ1つのコトに時間がちょっとかかるのだろう。その証拠に,額には汗をかき,ちょっと笑顔が消えかけている。。。
ちょっと暑そうだが,今夜の父は頭もわりとクリアで,機嫌も悪くなさそうだった。やはり,栄養がちゃんと行き渡りはじめたのかな?
「今日は何曜日?」「ママは,どうしてる?」など,寝ているのかと思ったら,ときどき思い出したように,話しかけてくる。驚いたのは,「昨日の雨は大丈夫だった?」と聞いてきたコト。
昨日の帰り,雨が降り出しそうな気配だったので,「傘を忘れたから,降られないうちに,いそいで帰るワ」と言って,病室を出てきたのだ。
・・・昨日のコト,ちゃんと覚えてたんだ。
おしぼりをもらってきて,父に手渡し,自分で顔をふかせる。ふきにくい所だけ,ワタシがふく。手のひらも,じっとりと濡れているので,よくふいておく。
父のベッド脇でいつものように文庫本を開いていたが,眠っているのかと思うと,ちょっと目を開いてこっちを見たり,なにか話をしたそうにする。かといって,これと言って,話題もないようだ。
ワタシも,毎日,職場と病院の往復だけでは,そうそう,新しい話題もない。食べ物の話はNGだし,あまり家のコトを詳細に話しても,帰りたくなってしまうだろうし。。。
でも,なんとか楽しい話をして,気を紛らせてやりたいと思う。毎日,同じベッドに寝ているだけの父。外界の空気を運んでやれるのは,ワタシだけなのだ。と言ってもなぁ・・・・・・
栄養の注入が終わってしばらくすると,胃腸が動くのか,「ウンコしたいな」と言い出した。はて。車椅子でトイレまでもつだろうか。緩いなら,車椅子に移乗しただけで,出てしまうかもしれない。でも,「オムツにそのままして」とは,やっぱり可哀相でいいにくい。
いちおう,ダメもとで看護師さんに聞いてみようと思い,ナースコールを押した。「はい,行きます」と応答があった。コールを押してしまったあとで,父は,「やっぱりしんどいから,トイレへはいかない。我慢しよう」と言う。「我慢しなくても,出てしまったらすぐに言って,オムツを替えてもらうから」と言ったが,そうは言っても,寝ながらじゃ,なかなか便はでないようだ。
看護師さんがやってきたら,「トイレに連れて行こうと思ったけど,やっぱりいいです」と,謝ろうと思って待っていたが,それから10分たっても,15分たっても,ワタシが帰る8時まで,看護師さんは来なかった。
こんなの,すぐにトイレに行きたくても,間に合わないじゃん・・・ねぇ?
とりあえず,帰るコトにした。父は今日は,笑顔でワタシが病室の入り口から消えるまで,こっちを見て,手を振っていた。
父が,笑顔なら笑顔で・・・これまた,せつないものがある。