『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』・初日☆

朝食は,マーガリンとオレンジマーマレードのトースト,ミルク。

朝,レースのカーテンを開けて窓の外を眺める。曇り空だが,雨は降っていない。ヨカッタ。足元が濡れずに済む。

5時半になると同時に猛ダッシュで事務所を飛び出す。ビルの前でタクシーをつかまえ,乗り込む。夕方から急に曇りだし,ポツポツと雨が降ってきた。

「困りましたねぇ,ほとんど動いてませんよ」と,カーナビを見やりながら運転手が言う。JR大阪付近へ向かう道路は,この時間はいつも詰まっている。雨も降りだしたから余計かもしれない。「ドラマシティに6時までには着きたいので」というと,運転手は西天満のほうから抜けてくれた。なにがあるのか,運転手が聞きたがったので『ヘドウィグ』を観に行くことを話す。それでも,ドラマシティ付近で,また道路が詰まる。メーターは1350円。「おかしいなぁ,普通ならこの料金で着くんですがね」と言いながら,運転手はメーターをそのまま倒す。「え?いいんですか?」「いやいや,私が勝手なルートを取ったので。せっかく楽しみにお芝居に行かはるのに,お金が余分にかかったら申し訳ない。」「じゃあお言葉に甘えます。5日間行くので助かります」「5日間毎日!?・・・打ちどころ悪かったんですかね(笑)ほら,6時前に着いた」・・・イイ運転手さんだった(笑)

6時前に劇場へ到着。昨日,苦労して見つけておいた,人の少ない椅子付きのパウダールーム。「どうか誰もいませんように」・・・誰もいなかった。

持ってきた服に着替え,化粧をし,ウィッグを装着。途中でずれないように,ピンでたくさん固定する。「つけマツゲ」がうまくつけられず,悪戦苦闘。泣きそうになりながら,4回くらいやり直す。アイメイクもなんだか稚拙な油絵のようになったが,それでも最後にウィッグをかぶると,ブロンドの前髪が目の上あたりに軽くかかるので全然気にならない。全体的にすごく満足。腕時計を見ると,もう開演10分前だ。あわてて劇場へ向かう。結局,最後までこのトイレには誰もやってこなかった。ものすごい穴場だ。

まず,パンフレットを買い,劇場内にあるコインロッカーに,荷物を押し込む。ほかのグッズも見たかったが,グッズ売り場はバーゲン会場のようなので,あきらめる。座席に着くまで,思ったとおりに,好奇の目をたっぷり浴びる。座席までの階段を降りていきながら,客席をチラリと見渡してみたが,ウィッグらしきものは,ほとんど確認できない。ワタシの姿は,多分,とても奇異に見えるだろう。「ちょっと,あの人見て」というヒソヒソ声,多数・・・ううむ。マイノリティ気分,満喫。自分だけなんか違う,という恥ずかしさと,自己満足の入り混じった気持ちで,我ながらとても高揚している。なんだか,すでに癖になりそう。

座席に座って間もなく,開演。待ち焦がれた『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』の初日の幕が開いた。

ヘドウィグは,昨年と同じように,客席中央上手の出入り口から現れた。今年の衣装は赤と黒が基調。上半身は露出がほとんどなくピッタリと覆われている。金色の光り物で装飾され,ちょっと闘牛士の晴れ着のようにも見える。黒のデコラティブなスカートはスカートというよりも,チューブ状の布がぐるぐるとトグロを巻いたオブジェのようなもの。足の付け根まであるロングブーツは昨年と同じように,カットワークをほどこされた黒革がぴたりと脚に張りつき,脚線を強調している。あくまでも華奢で高い金色のヒール。このブーツはとても好きだな。

白いウィッグも,さらにオブジェのように進化していて,ほとんど髪には見えない。華々しく頭上を飾るインディアンの髪飾りのようにも見える。メイクは濃い鮮やかなピンクと銀のラメが印象的で,やはりツケまつ毛の威力が絶大だ。唇は赤いラメでテラテラと光っている。深く剃り上げられた綺麗な額には,パールの粒が数粒。

そのテラテラと赤く光った薄い唇から,機関銃のように繰り出される言葉。時に辛辣な皮肉に,自嘲。ジョークにならないジョーク。初演の時は,最初の数十分,違和感を感じた「オネエ言葉」も,今年はまったく気にならないコトに,ずいぶん経ってから気づく。たとえば,「おすぎとピーコ」がTVで,オジさんの顔で女言葉でまくし立てていても,今ではちっとも不自然に感じないように。ミカミヒロシは,もう既に,骨の髄まで「ヘドウィグ」になってしまっていた。

絶え間なく動く,敏捷な身体。可愛らしい動きと同じくらい頻繁な,客を馬鹿にしたような卑猥なポーズ。ミカミヒロシの身体能力はやはりすごいな。贅肉のない挑戦的な脚のラインや,ツンと顎をあげた時の,美しい横顔のラインに,ぼうっと見惚れる。

そうこうする間にも,たたみかけるように,ヘドウィグ(ハンセル)の物語はうねりだし,いくつもの歌が強力なパンチのように繰り出され,客席のワタシたちを叩きのめす。『オリジン・オブ・ラブ』で,ワタシはやはり少し涙ぐんでしまい,『WIG IN THE BOX』では,健気(けなげ)な少女のような気持ちになり,『シュガー・ダディ』では,極上の楽しい気分に。そして,最後の『ミッドナイト・レディオ』で,はっきりと救済された。

♪大丈夫だから。手をとりあって。そばにいるから♪と歌う時,彼は,下手舞台の際まで来て自分の両手を固く揉みしだくように握りしめ,客席へ身を乗り出すようにして,その両手を固く結んだまま,差し出してくれた。胸がたまらなく,じんとした。ヘドウィグ(ミカミ)の歌は,客を驚かせ,ウキウキさせ,どうしようもない怒りとやるせなさを感じさせ,それから哀しくさせ,そして,最後に優しく力強く,救ってくれた。

『ヘドウィグ』の物語にこんなに惹かれ,「ダイジョウブだから」と言われてこんなに泣きそうになるのは,多分,ワタシも淋しく,そして自分が「どこか欠けている」と感じている人間だからなのだろう。それでも,やはり人間は誰もが究極には「ひとり」で,人生は平らではないから,なにが起こったとしても,自分の2本の足で立ち,再生しなければならない。そんな時,自分を信じるコトができたら,それは「力」になる。自分で自分に「ダイジョウブ」と,ちゃんと言ってやるコトができたら。

歌にあわせて両手を突き上げながら,「うん,ワタシ,ダイジョウブだ」と思った。ヘドウィグ,ミカミさん,どうもアリガトウ。

それにしても,ヘドウィグ登場の時から,客席からは悲鳴やら大歓声の嵐。大阪の観客は,こんなにもヘドウィグを待っていたのだな,と実感。初めての人も多いだろうが,リピーターや熱狂的なファンが多いに違いない。ワタシ自身も,昨年の舞台が終わった直後から,この日を待っていた。再演が決まってからは,なお,待ち焦がれた。

しかし,そのせいか,物語が始まる前から,性急に多くのモノをヘドウィグに求めすぎはしなかっただろうか? 少なくとも,ワタシはそうだった。ヘドウィグが劇中,なにをしても,なにを言っても,嬉しくてたまらなく,過剰に反応した。そしてそれは,多分,ワタシだけではなかったはず。観客に熱狂的に迎え入れられている,という空気は,役者・三上博史にとっては嬉しいには違いないが,『ヘドウィグ・・・』の劇世界にとってはどうなのだろう。

ヘドウィグは,名声からはほど遠く,世間からは好奇の目でしか見られていない,売れないロッカー。

最初は,ヘドウィグの強烈なキャラクターに違和感を覚え,呆気にとられ,少し腰が引け,それでも次第に惹かれはじめ,愛らしいと思い,物語と歌にどんどん引込まれて,熱い思いがこみあげて,最後には無我夢中でこぶしをふりあげ,彼女と1つになろうとする・・・まるで初めてヘドウィグに出会った,あの日のワタシのように。客席の反応としては,多分,それが理想。でも,ワタシはすでにヘドウィグを知っていて,もう愛してしまっているから,まったく同じリアクションはできない。ゼロからヘドウィグとまた出会うコトはできない。

中盤からラストにむけて,うまく言葉ではいえないが,舞台とのあいだに,微妙なモノを感じた。もちろん,ミカミ・ヘドウィグは完璧に魂をこめて演じ,歌ったし,客席も熱く熱くなった。温度差というよりも,むしろ微妙なタイミングだろうか。ヘドウィグにひきずられ,巻き込まれるよりも,ほんの少し先に,観る側がみずから巻き込まれにかかってしまったかのような。感動はしたが,ワタシは完全な一体感を味わうコトができなかった。。。一緒に昇りつめなければ,「1つになれた!」と感じるコトはできない。

しかし,これもまた,ライヴの魅力。客席によって舞台も変わるだろうし,舞台によって,客席も変わるだろうから。5日間,どんな舞台が展開されて,どんな空気が劇場に立ちこめるのか,「いち観客」として立ち会える喜び。

カーテンコールは4回だったか,5回だったか。拍手はなかなか鳴りやまなかった。何度目かのカーテンコールで舞台から去るとき,エミさんがワタシの顔を見て,親指を立ててウィンクしてくれた。「ウィッグ,OKだよ」という意味かなぁ?嬉しかったから,勝手にそう思うコトにしよう。優しいなぁ,エミさん。ミカミは,なんだか男性客ばかり見ている気がするが。

終演後,外のトイレで着替え,メイクを落とし,サングラスをかけてダッシュで電車に乗る。疲れた。11時前に帰宅。

ものすごい空腹だったので,夕食の残りらしき天ぷらを,がつがつと食べて,シャワーを浴びて,ネットをしてから,午前1時半,就寝。

☆舞台を観たコトがある人にしかわからない,初日のネタなどについて☆

大阪のご当地ネタは,ドラムの人が,芝居の中でのメンバー紹介で,無言でアルミの灰皿を2枚出して,あの「ポコポコヘッド」(最近,吉本でやってますか?)を披露。あまりのローカルさに,ヘドウィグは呆れ顔。

イツハクが「くされマンコ!」と2回つぶやいて,ヘドウィグが「何ですって!?もう1回言ってごらん!」と台詞を言ったとたんに,客席後方から男性客がでかい声で「くされマンコ!!」。ヘドウィグは,あっけにとられて,素に戻りかけたけど,それも一瞬で,すぐさま「・・・アンタなんかに言われたかぁないわよっっっ!!」と応酬。「このイツハクはワタシの夫だけど,アンタなんか・・・アンタなんか,ただの見知らぬオヤジじゃないのっっっ!!」と,ステージからその男性客に向かって叫ぶ叫ぶ。その後もしばらく「勘弁してよ」とブツブツ毒を吐いていました。面白かった。。。

「パンクの洗礼」のところで,ヘドウィグが口に水をふくんで,客席にぶわっと霧状の水を飛ばすシーン。3列目まではビニールシートが配られているけど,4列目はなし。でも,そんなもん,要らない。両手を広げて,たっぷりミカヘドの唾液まじりの聖水を浴びました。ファンとはこんなモノ。

シュガーダディは,客席うんと後方へかけあがって,通路近くの男性に。あとで舞台に上がってから「オヤジじゃなかったわね,お兄さんだったわネ(すごい笑顔。お気に召したのかしら?)」「聞いて聞いて!隣の彼女の足,踏んづけてやったワ。ヒールでむぎゅううっって!!あ~おもしろかったっ♪」と,バンドメンバーに話しかけ,最後は笑いながら,しゃがみこんでしまい,ホントに楽しそうでした。遠くでよく見えなかったけど,男性に乗っかる前,多少,もたついていたから,もしかしたら,マジで彼女の足を踏んづけちゃったのかも(笑)

4列目下手通路横だったので,ヘドウィグが横を通りましたが,噂の香水の香りはキャッチできず。。。ワタシの鼻のせい?つけていたのかな??

トマトを胸で叩き潰した後のミカミの表情,壮絶でした。もう,尋常ではない者の目。壊れていくヘドウィグをただただ見ているだけのイツハクの表情,舞台の端で立ちつくし,最後は頭を抱えて背を向け,座り込んでしまうイツハク。ヘドウィグにはヘドウィグの悲しみや苦悩があるように,イツハクにもイツハクの悲しみ,苦しみ,怒りがある。。。そんな負の感情を誰にぶつけるコトも許されない,イツハクの内面を,エミ・エレオノーラは,わずかに動くだけの表情でちゃんと演じていた。異質な存在感が,初演の時から好き。
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by rompop | 2005-07-05 11:09 | 三上博史&『ヘドウィグ』


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